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事業譲渡で退職したら会社都合になる?~転籍の拒否・解雇・退職金の扱い~

2026/08/14 10:49|カテゴリー:M&A

事業譲渡で退職したら会社都合になる?~熊本の相談現場で見る、失業給付の扱いと転籍の実務~

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。

事業譲渡の話が具体的になってくると、経営者の方から必ずと言っていいほど出るのが「従業員はいったん退職という形になると聞いたが、それは会社都合退職になるのか」というご質問です。従業員から「会社都合にしてもらえるんですか」と直接尋ねられて、答えに詰まったという声もよく伺います。失業給付の受け取り方が変わるだけでなく、譲渡する側にとっても助成金の受給や条件交渉に影響する論点です。今回は、事業譲渡にともなう退職が会社都合になるのかどうかを出発点に、従業員が転籍を拒否したときの対応、事業譲渡を理由に解雇できるのか、退職金や勤続年数はどう引き継ぐのかまで、熊本の相談現場で実際に整理している順序に沿って解説します。

事業譲渡で退職したら会社都合になる?

結論:事業譲渡だから自動的に会社都合、とは限らない

先に結論をお伝えすると、事業譲渡が行われたという事実だけで、退職が一律に会社都合になるわけではありません。判断の分かれ目は「その従業員に、譲受企業での働き口が用意されていたか」「用意されていたとして、労働条件が大きく下がっていないか」という点にあります。

譲受企業に引き継がれず職を失う場合や、引き継がれても賃金・勤務地などの条件が大幅に変わってやむを得ず辞める場合は、雇用保険上「特定受給資格者」、いわゆる会社都合に相当する扱いとなる可能性が高くなります。一方で、これまでとほぼ同じ条件の転籍先が示されているにもかかわらず本人の意思で断った場合は、自己都合と判断されることがあります。最終的な離職理由の認定はハローワークが行うため、会社側で「会社都合にします」と確約することはできない点にも注意が必要です。

そもそも、なぜ一度退職の手続きが必要になるのか

事業譲渡は、会社そのものを引き継ぐ株式譲渡とは仕組みが異なります。株式譲渡は株主が変わるだけなので、従業員の雇用契約はそのまま続きます。これに対して事業譲渡は、資産・契約・許認可などを一つひとつ選んで移す「個別承継」です。雇用契約も例外ではなく、自動的には移りません。

そのため実務では、譲渡会社をいったん退職し、譲受会社と新たに雇用契約を結び直す(転籍する)という手続きを踏みます。ここで本人の同意が必要になるため、事業譲渡では従業員への説明が交渉の山場になりやすいのです。この点は、譲渡の対象に誰を含めるかという交渉そのものと直結します。

会社都合と自己都合、どこで分かれるのか

事業譲渡にともなう退職 会社都合と自己都合の分かれ目

下の図は、熊本のご相談で実際にお伝えしている分かれ目の整理です。個別の事情によって判断は変わりますので、あくまで目安としてご覧ください。

特に見落とされやすいのが、賃金の減額幅や通勤時間の変化です。譲受企業の拠点が遠方にあり通勤が難しくなった、賞与を含めた年収が大きく下がった、といった事情は、本人が「辞めます」と言った場合でも、実質的にはやむを得ない退職と評価されることがあります。「本人が辞めると言ったのだから自己都合だ」と早合点せず、条件の変化を書面で整理しておくことが大切です。

譲渡する側が実務で押さえておきたい3つのこと

第一に、離職票に記載する離職理由は事実に沿って書くことです。実態と異なる記載は、後々のトラブルや行政からの指摘につながります。

第二に、会社都合の離職者を出すと、雇用関係の助成金の一部が一定期間使えなくなる場合があります。譲渡後も会社を残して別の事業を続ける予定があるなら、影響の有無を事前に確認しておくべきです。

第三に、退職金や未消化の有給休暇の扱いを、譲渡契約の中で明確にしておくことです。勤続年数を通算するのか、譲渡時にいったん精算するのか。ここが曖昧なまま進むと、譲渡後に従業員の不満が噴き出し、せっかく引き継いだ事業の立ち上がりに影響します。制度の細かな要件は改正や運用の変更もありますので、最新の情報を確認し、社会保険労務士などの専門家にご相談ください。

従業員が転籍を拒否したら、どうなるのか

事業譲渡の説明会の後、「一人だけ移りたくないと言っている」というご相談を受けることがあります。ここで押さえておきたいのは、転籍には本人の同意が必要で、拒否できるのが原則だという点です。使用者は労働者の承諾を得なければ権利を第三者に譲り渡せないとされており、事業譲渡の合意だけで雇用契約が譲受企業へ移ることはありません。

拒否されたときに取り得る選択肢

実務では、次の三つのいずれかを検討することになります。第一に、譲渡会社に別の事業や役割が残っているなら、そのまま在籍してもらう方法です。第二に、労働条件や勤務地の提示をあらためて見直し、再度提案する方法です。第三に、合意のうえで退職していただく方法です。

三つ目を選ぶ場合、離職理由の扱いが問題になります。譲受企業での受け皿がそもそも用意されていなかった、あるいは提示された条件が従前より大きく下がっていたという事情があれば、本人が拒否して辞めた場合でも会社都合に相当すると判断される可能性があります。逆に、ほぼ同等の条件の転籍先が具体的に示されていた場合は、自己都合と評価されることがあります。判断するのはハローワークですので、会社側で結論を約束しないことが大切です。

熊本の相談現場で気をつけていること

熊本市や八代市のように、拠点が一つしかない中小企業では、「譲受企業の本社が県外にある」「勤務地が車で一時間先になる」といった変化が転籍拒否の直接の理由になりがちです。私たちは、条件の提示を口頭だけで済ませず、賃金・勤務地・役職・退職金の扱いを一覧にした書面を用意することをおすすめしています。後から「聞いていない」という食い違いを防ぐだけでなく、離職理由を整理するときの裏づけにもなるためです。

事業譲渡を理由に解雇できるのか

転籍を拒否した従業員を解雇できないか、というご質問もいただきます。結論から申し上げると、「事業を譲渡するから」という理由だけで解雇することは、原則として認められにくいと考えられます。解雇は、客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当と認められない場合には無効となるのが原則だからです。

整理解雇として見られるときの視点

やむを得ず人員の削減が必要になる場面では、裁判例上、おおむね次の四つの観点から相当性が検討されるとされています。

  • 人員を削減する必要が本当にあったか
  • 配置転換や希望退職の募集など、解雇を避ける努力を尽くしたか
  • 誰を対象にするかの人選に合理的な基準があったか
  • 本人や労働組合への説明・協議の手続きが十分だったか

事業譲渡の場面では、譲受企業に受け皿がある以上「解雇を避ける努力を尽くした」と言いにくいことが少なくありません。そのため、解雇という手段に進む前に、条件の見直しや在籍のまま別業務への配置を検討するのが実務的な順序になります。

退職勧奨との線引き

解雇と混同されやすいのが退職勧奨です。退職勧奨はあくまで本人の任意の意思に基づく合意退職の申し入れであり、断る自由が保障されていなければなりません。短期間に何度も面談を重ねる、強い言い方で決断を迫るといった進め方は、後に無効や損害賠償の争いにつながるおそれがあります。合意に至った場合は、退職日・退職金・離職理由の記載方法まで書面で残しておくことをおすすめします。個別の事情によって評価は変わりますので、進める前に弁護士にご相談ください。

退職金・勤続年数・有給休暇はどう引き継ぐのか

「事業譲渡 退職金」というご相談で最も多いのが、勤続年数の扱いです。事業譲渡では雇用契約がいったん切れるため、勤続年数も退職金も、自動的には引き継がれません。どうするかは、譲渡する側と譲受企業の合意で決めることになります。

通算するか、いったん精算するか

実務上は、譲渡時に譲渡会社が退職金を精算して支払う方法と、譲受企業が勤続年数を通算して将来支払う方法に大きく分かれます。前者は譲渡会社にまとまった資金負担が生じますが、後に残る債務がなく整理しやすいという利点があります。後者は従業員の納得を得やすい一方、譲受企業が将来負う負担の分だけ譲渡価格の交渉に影響することが一般的です。どちらが有利かは、退職金規程の内容や対象人数、資金繰りの状況によって変わります。

有給休暇と社会保険の切り替え

未消化の年次有給休暇も、当然には移りません。譲渡前に取得してもらう、買い取りの可否を検討する、譲受企業に日数を引き継いでもらうといった扱いを、事前に決めておく必要があります。社会保険や雇用保険も、資格喪失と取得の日付がずれると空白期間が生まれてしまいますので、譲渡日を基準に手続きの段取りを組んでおきます。

譲渡契約に書いておきたい項目

  • 勤続年数を通算するかどうか、通算する場合の起算日
  • 退職金の負担者と支払時期
  • 未消化の年次有給休暇の取り扱い
  • 賞与の按分の考え方
  • 社会保険・雇用保険の切り替え日
  • 離職票に記載する離職理由の整理方法

熊本でのご相談では、この六つを一枚の表にまとめ、従業員説明会の前に譲受企業と合意しておく形をとることが多くあります。条件が固まっていない状態で先に従業員へ説明してしまうと、質問に答えられず不安だけが広がってしまうためです。税務上の取り扱いや助成金の要件は改正されることもありますので、最新の情報を確認し、社会保険労務士や税理士などの専門家にもご相談ください。

経営者として従業員へどう説明するか

会社都合か自己都合かという論点は、制度の理解だけで終わらせると、かえって説明がむずかしくなります。従業員が知りたいのは条文ではなく「自分の生活がどうなるのか」ですので、伝える順番を決めておくことが大切です。

伝える順番は「事業は続く」から始める

最初にお伝えいただきたいのは、会社をたたむのではなく、事業を続けるために譲るという位置づけです。ここが抜けたまま退職手続きの話から入ると、整理や解雇の話だと受け取られてしまいます。

そのうえで、譲受企業がどのような会社か、給与や勤務地はどうなるのか、勤続年数や有給休暇はどう引き継がれるのかを、書面で示しながら説明していきます。退職という形式を踏む理由は、最後に制度の説明として加えるほうが落ち着いて聞いていただけます。

「会社都合にしてほしい」と言われたときの答え方

面談の場でこの質問が出たときに、その場で約束してしまうのは避けたほうがよいと考えています。離職理由は会社が自由に決められるものではなく、受け皿の有無や労働条件の変化といった実態から判断されるのが原則だからです。

熊本市・八代市でのご相談でも、ここを先に約束してしまい、後で説明が覆って不信につながった例があります。「実態に沿って判断されるものなので、こちらの見込みと根拠をお伝えします」という形で、判断の枠組みから説明するほうが結果的に納得を得やすい印象です。

通知のタイミングと説明会の組み方

説明の順番そのものについては、条件が固まる前に伝えると不安だけが広がるため、最終契約の内容がおおむね固まった段階で幹部から順に伝えていくのが実務の基本です。通知のタイミングと同意の取り方は、事業譲渡で従業員への通知はいつ行うかの記事で、譲渡する側の立場から詳しく整理しています。

従業員数が少ない小規模な案件では、説明会を開かずに最初から個別面談で進めるほうが話しやすいこともあります。1000万円以下の案件での伝え方の順番は1000万円以下のM&Aで従業員にいつ伝えるかをご覧ください。

そもそも退職手続きを踏まない設計もある

株式譲渡であれば会社そのものは存続しますので、雇用契約の相手方は変わらず、退職と再雇用という形式を踏む必要は原則としてありません。従業員数が多い会社で、同意の取得や離職理由の説明に大きな負担が見込まれる場合は、手法そのものを見直す価値があります。

どちらの手法を選ぶかは手取り額や税金にも関わりますので、株式譲渡と事業譲渡どちらで売るかの記事とあわせてご検討ください。個別の事情により結論は変わりますので、設計の段階で専門家にご相談ください。

まとめ

事業譲渡にともなう退職が会社都合になるかどうかは、譲受企業での受け皿の有無と労働条件の変化で決まります。譲渡する側にとっては、単なる手続きの問題ではなく、従業員の納得を得られるかどうか、そして譲渡の条件交渉をどう組み立てるかという経営判断そのものです。従業員への説明の順番を誤ると、話がまとまりかけていた譲渡自体が止まってしまうことも珍しくありません。

TORUTEでは、熊本市・八代市を中心に、事業譲渡やM&Aにともなう従業員の処遇整理、譲渡契約の条件づくりまで一貫してご支援しています。「うちの場合はどうなるのか」「従業員にいつ、どう伝えればよいのか」といった段階でも構いません。お気軽にご相談ください。

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