TORUTEブログ
個人事業主の事業承継は親子でどう進める?~法人と違う手続きと、熊本の相談現場で見る引き継ぎの実務~
2026/08/08 16:28|カテゴリー:事業承継

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。
「個人事業を息子に引き継ぎたいが、会社と違って株がない。どうやって承継すればいいのか」——熊本市や八代市でご相談を受けていると、法人ではなく個人事業主の方からこうしたお声をいただくことが少なくありません。法人であれば株式を渡せば会社ごと引き継げますが、個人事業には「株式」という受け皿がありません。屋号・取引先・許認可・従業員・借入れを、どうやって親から子へ移すのか。今回は、個人事業主が親子間で事業を承継するときの手続きと、実務で必ずつまずくポイントを整理します。
結論:個人事業の承継は「親の廃業+子の開業」が出発点

まず押さえていただきたい結論から申し上げます。個人事業の親子間承継は、法人のような包括承継ではありません。原則として、親が「廃業届」を出し、子が「開業届」を出す。税務上はこの2つの手続きが土台になります。
ここが法人との決定的な違いです。法人の場合、株式が移動しても会社という器はそのまま残るため、契約も許認可も従業員との雇用関係も、原則そのまま引き継がれます。ところが個人事業では、事業を営んでいる「人」そのものが変わります。つまり、契約も許認可も従業員との関係も、一つひとつ結び直す必要があるということです。「親子だから自然に引き継がれるだろう」という前提で進めてしまうと、承継後に取引が止まったり、許認可が切れて営業できなくなったりする事態が起こり得ます。
引き継げるもの・結び直しが必要なもの
実務では、承継の対象を「そのまま渡せるもの」と「手続きをしないと渡せないもの」に分けて考えると整理しやすくなります。
設備・車両・在庫といった事業用資産は、贈与または売買という形で子へ移すことができます。屋号もそのまま使い続けて構いません。一方で、取引先との継続的な契約、店舗や事務所の賃貸借契約、リース契約、金融機関からの借入れ、従業員の雇用契約、そして許認可は、いずれも名義人が変わる以上、相手方の承諾を得たうえで結び直すのが原則です。
特に注意していただきたいのが許認可です。建設業、飲食業、運送業、産業廃棄物処理業など、業種によっては親の許認可を子がそのまま引き継げず、子が新規に取得し直さなければならない場合があります。要件を満たすまでに数か月かかることもありますので、承継の日程を決める前に、まず管轄の窓口で確認しておくことをおすすめします。
親子承継で見落とされやすい3つの実務
ご相談の中で、後から問題になりやすい論点を3つ挙げます。
1つ目は借入れです。個人事業の借入れは事業主個人の債務ですので、子が事業を引き継いでも、返済義務が自動的に子へ移るわけではありません。金融機関と協議し、債務引受や借換えなどの手続きが必要になります。事前に相談せずに進めると、承継後の資金繰りに支障が出かねません。
2つ目は資産の移し方です。事業用資産を無償で渡せば贈与、有償で渡せば売買となり、それぞれ贈与税・所得税の扱いが変わります。金額や資産の内容によって有利不利が変わるため、税理士など専門家にご相談のうえ判断されることをおすすめします。
3つ目は他のご家族との関係です。事業用資産の多くを後継者となるお子さんに集中させると、将来の相続で他のご兄弟との間で不公平感が生じ、遺産分割がまとまらないことがあります。事業を守るためにも、承継の段階で家族全体の資産配分を見渡しておくことが大切です。
個人版事業承継税制という選択肢
個人事業主の承継については、一定の要件を満たすことで、事業用資産にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される「個人版事業承継税制」という制度が設けられています。適用には計画の提出や確認申請など事前の手続きが必要で、期限や要件も定められています。
ただし、この種の制度は要件や期限が改正されることがあり、また猶予が取り消される場合の負担も小さくありません。ご検討の際は、必ず最新の公表資料をご確認いただくとともに、税理士等の専門家にご相談ください。制度を使うことが目的化してしまい、事業そのものの引き継ぎ準備が後回しになっては本末転倒です。
まとめ
個人事業主の親子承継は、株式を渡せば済む法人の承継とは進め方が異なります。廃業届・開業届という税務手続きを土台に、契約・許認可・借入れ・従業員との関係を一つひとつ結び直していく——地道ですが、この積み重ねが承継後の事業を守ります。特に許認可と借入れは、準備に時間がかかる論点です。「そろそろ息子に」とお考えになった時点で、逆算して動き始めていただくのが安心です。
TORUTEでは、熊本市・八代市を中心に、法人・個人事業を問わず事業承継のご相談を承っています。何から手をつけるべきか整理するところからお手伝いできますので、お気軽にご相談ください。
最近の投稿
- 会社を整理したら社長の個人保証はどうなる?~経営者保証ガイドラインと、再生型M&Aで事業を残す方法~
- M&Aは安く済ませられる?~1000万円以下の少額案件でかかる費用と『安い会社』の見極め方~
- M&Aの仲介手数料に補助金は使える?~事業承継・M&A補助金『専門家活用枠』の対象と申請の流れ~
- 債務超過でも会社は残せる?~熊本の相談現場で見る、再生型M&Aとスポンサー型で事業をつなぐ方法~
- 100万円で買える会社は本当にある?~スモールM&Aと1000万円以下の少額案件の実態と注意点~
- これから危ない企業に共通する特徴とは?~熊本の相談現場で見る、決算書で確認したい5つの危険信号~
- 事業譲渡で退職したら会社都合になる?~熊本の相談現場で見る、失業給付の扱いと転籍の実務~
- 熊本で事業継承を考え始めたら?~「事業継承」と「事業承継」の違いと、まず整理したい3つのこと~
- 後継者がいない仕事はどうやって続く?~熊本の相談現場で見る、外部から後継者を迎える3つのルート~
- M&Aの価格はどう決まる?~評価額と実際の売買価格がズレる理由を、熊本の相談現場から解説~