TORUTEブログ
2026年8月
M&Aの価格はどう決まる?~評価額と実際の売買価格がズレる理由を、熊本の相談現場から解説~
2026/08/09 20:06|カテゴリー:M&A

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。
「うちの会社をM&Aで譲るとしたら、価格はいくらになるのか」。ご相談のなかで、最初に聞かれることの多い質問です。ところが、いざ算定してみた評価額と、最終的に契約書に書かれる金額は、しばしば一致しません。事前に「3億円くらい」と聞いていたのに、成約時には2億円台前半になっていた、という話も珍しくありません。この記事では、M&Aの価格がどのように決まるのか、そして評価額と実際の売買価格がなぜズレるのかを、熊本の相談現場で見ている実務の目線から整理します。
M&Aの価格は「評価額」ではなく「合意額」で決まる
結論から申し上げると、M&Aの価格を決めるのは計算式ではなく、売り手と買い手の合意です。年倍法(年買法)や類似会社比較法、DCF法といった評価手法は、あくまで「交渉の出発点となる目安」を出すためのものです。同じ会社を3つの手法で評価すれば、3つの異なる金額が出てきます。どれかが正解というわけではありません。
実務では、まず売り手側で評価額のレンジ(幅)を持ち、買い手が自社の事業計画に照らして提示価格を出し、その間で交渉する流れになります。つまり価格は一点ではなく、最初から幅のあるものだと考えておくほうが、交渉の場で冷静に判断できます。
評価額と売買価格がズレる4つの要因

では、なぜ算定した評価額から金額が動くのでしょうか。相談現場でよく見るのは、次の4つです。
1つ目は、有利子負債の取り扱いです。企業価値から借入金を差し引いて株式価値を出すため、決算後に借入が増えていれば、その分だけ手取りは減ります。2つ目は運転資本のブレです。売掛金や在庫の水準が期末と引渡し時点で違えば、その差額を価格調整として精算する契約が一般的です。
3つ目は、デューデリジェンス(買収監査)で見つかる簿外の負担です。未払残業代、退職金の積立不足、リース債務、係争中の案件などが出てくると、買い手はそのリスク分を価格から引きます。4つ目は、買い手ごとにシナジーの見方が違うことです。同業で近隣にあり相乗効果が大きい買い手と、業種の異なる買い手では、同じ会社でも出せる金額が変わります。
デューデリジェンスで価格が動く前に、できる準備がある
価格が下がる場面の多くは、デューデリジェンスで「想定していなかったもの」が出てきたときです。逆に言えば、その多くは事前に整理しておける項目でもあります。
たとえば、社長個人と会社のお金が混ざっている(役員貸付金、個人名義の不動産を会社が使っている、など)状態は、譲渡前に整理しておくほうがよいものの代表です。労務面では、就業規則や36協定、残業代の計算方法が現行法に沿っているかを確認しておくと、後から大きな減額要因になりにくくなります。契約関係では、主要取引先との契約書が残っているか、チェンジ・オブ・コントロール条項(支配権が変わると解約できる条項)がないかも確認しておきたい点です。
「高く売る」より「価格が下がらない状態にしておく」
熊本の中小企業の場合、売上規模だけで価格が決まることはあまりありません。むしろ、社長個人に依存していないか、利益が安定しているか、数字と実態が一致しているか、といった点が価格に効いてきます。
社長がいないと受注が止まる会社は、買い手にとってリスクが大きく、その分だけ価格は慎重になります。営業先の引き継ぎ、業務の仕組み化、幹部への権限移譲を数年かけて進めておくことが、結果として価格を守ることにつながります。準備の期間が取れるかどうかで交渉の選択肢は変わりますので、譲渡を具体的に考える前の段階から着手しておく価値があります。
まとめ
M&Aの価格は、評価手法で機械的に決まるものではなく、有利子負債や運転資本の調整、デューデリジェンスで判明した事項、買い手ごとのシナジーの見方によって動きます。だからこそ、算定額を一つの数字として信じ込むのではなく、幅があるものとして捉え、下がる要因を先に減らしておく発想が大切です。なお、税務上の取り扱いや契約上の価格調整の方法は個別事情によって結論が変わりますので、具体的な検討にあたっては税理士・弁護士などの専門家にご相談ください。
TORUTEは熊本市・八代市を中心に、事業承継とM&Aのご相談をお受けしています。「自社がいくらで評価されるのか知りたい」「まだ売る気はないが、選択肢として整理しておきたい」という段階でも構いません。お気軽にご相談ください。
個人事業主の事業承継は親子でどう進める?~法人と違う手続きと、熊本の相談現場で見る引き継ぎの実務~
2026/08/08 16:28|カテゴリー:事業承継

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。
「個人事業を息子に引き継ぎたいが、会社と違って株がない。どうやって承継すればいいのか」——熊本市や八代市でご相談を受けていると、法人ではなく個人事業主の方からこうしたお声をいただくことが少なくありません。法人であれば株式を渡せば会社ごと引き継げますが、個人事業には「株式」という受け皿がありません。屋号・取引先・許認可・従業員・借入れを、どうやって親から子へ移すのか。今回は、個人事業主が親子間で事業を承継するときの手続きと、実務で必ずつまずくポイントを整理します。
結論:個人事業の承継は「親の廃業+子の開業」が出発点

まず押さえていただきたい結論から申し上げます。個人事業の親子間承継は、法人のような包括承継ではありません。原則として、親が「廃業届」を出し、子が「開業届」を出す。税務上はこの2つの手続きが土台になります。
ここが法人との決定的な違いです。法人の場合、株式が移動しても会社という器はそのまま残るため、契約も許認可も従業員との雇用関係も、原則そのまま引き継がれます。ところが個人事業では、事業を営んでいる「人」そのものが変わります。つまり、契約も許認可も従業員との関係も、一つひとつ結び直す必要があるということです。「親子だから自然に引き継がれるだろう」という前提で進めてしまうと、承継後に取引が止まったり、許認可が切れて営業できなくなったりする事態が起こり得ます。
引き継げるもの・結び直しが必要なもの
実務では、承継の対象を「そのまま渡せるもの」と「手続きをしないと渡せないもの」に分けて考えると整理しやすくなります。
設備・車両・在庫といった事業用資産は、贈与または売買という形で子へ移すことができます。屋号もそのまま使い続けて構いません。一方で、取引先との継続的な契約、店舗や事務所の賃貸借契約、リース契約、金融機関からの借入れ、従業員の雇用契約、そして許認可は、いずれも名義人が変わる以上、相手方の承諾を得たうえで結び直すのが原則です。
特に注意していただきたいのが許認可です。建設業、飲食業、運送業、産業廃棄物処理業など、業種によっては親の許認可を子がそのまま引き継げず、子が新規に取得し直さなければならない場合があります。要件を満たすまでに数か月かかることもありますので、承継の日程を決める前に、まず管轄の窓口で確認しておくことをおすすめします。
親子承継で見落とされやすい3つの実務
ご相談の中で、後から問題になりやすい論点を3つ挙げます。
1つ目は借入れです。個人事業の借入れは事業主個人の債務ですので、子が事業を引き継いでも、返済義務が自動的に子へ移るわけではありません。金融機関と協議し、債務引受や借換えなどの手続きが必要になります。事前に相談せずに進めると、承継後の資金繰りに支障が出かねません。
2つ目は資産の移し方です。事業用資産を無償で渡せば贈与、有償で渡せば売買となり、それぞれ贈与税・所得税の扱いが変わります。金額や資産の内容によって有利不利が変わるため、税理士など専門家にご相談のうえ判断されることをおすすめします。
3つ目は他のご家族との関係です。事業用資産の多くを後継者となるお子さんに集中させると、将来の相続で他のご兄弟との間で不公平感が生じ、遺産分割がまとまらないことがあります。事業を守るためにも、承継の段階で家族全体の資産配分を見渡しておくことが大切です。
個人版事業承継税制という選択肢
個人事業主の承継については、一定の要件を満たすことで、事業用資産にかかる贈与税・相続税の納税が猶予される「個人版事業承継税制」という制度が設けられています。適用には計画の提出や確認申請など事前の手続きが必要で、期限や要件も定められています。
ただし、この種の制度は要件や期限が改正されることがあり、また猶予が取り消される場合の負担も小さくありません。ご検討の際は、必ず最新の公表資料をご確認いただくとともに、税理士等の専門家にご相談ください。制度を使うことが目的化してしまい、事業そのものの引き継ぎ準備が後回しになっては本末転倒です。
まとめ
個人事業主の親子承継は、株式を渡せば済む法人の承継とは進め方が異なります。廃業届・開業届という税務手続きを土台に、契約・許認可・借入れ・従業員との関係を一つひとつ結び直していく——地道ですが、この積み重ねが承継後の事業を守ります。特に許認可と借入れは、準備に時間がかかる論点です。「そろそろ息子に」とお考えになった時点で、逆算して動き始めていただくのが安心です。
TORUTEでは、熊本市・八代市を中心に、法人・個人事業を問わず事業承継のご相談を承っています。何から手をつけるべきか整理するところからお手伝いできますので、お気軽にご相談ください。
事業譲渡で従業員への通知はいつ行う?~熊本の相談現場で見る、伝えるタイミングと同意の取り方~
2026/08/07 13:31|カテゴリー:M&A

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。事業譲渡を検討し始めた経営者の方から、必ずと言っていいほどいただくのが「従業員にはいつ、どう伝えればいいのか」というご相談です。取引先や金融機関への説明よりも、長年一緒に働いてきた社員への通知をためらう方は少なくありません。この記事では、事業譲渡における従業員への通知について、法律上のルールと、熊本の相談現場で私たちがお伝えしている実務上のタイミングを整理します。
結論:法定の通知期限はないが、「同意」は一人ひとりから必要
まず押さえていただきたいのは、事業譲渡には従業員への通知期限を定めた法律がない、という点です。会社分割の場合は労働契約承継法によって書面通知の期限まで細かく決まっていますが、事業譲渡はこれとは仕組みが異なります。
一方で、事業譲渡は権利義務を一つひとつ引き継ぐ「個別承継」です。そのため労働契約は自動的には移らず、従業員を譲受企業へ転籍させるには、従業員本人の個別の同意が必要になります。つまり「通知の期限は決まっていないが、同意が取れなければ事業は動かない」という構造です。だからこそ、通知のタイミングは法律ではなく、実務の設計で決めるべき問題になります。なお、厚生労働省の指針では、譲渡会社が対象となる労働者と事前に十分な協議を行うことが求められている点にも留意が必要です。
「早すぎる通知」が招く3つのリスク
従業員への配慮から、基本合意の前に社員へ打ち明けたいとおっしゃる経営者もいます。ただ、条件がまだ固まっていない段階での通知は、かえって現場を混乱させることがあります。
第一に、給与や勤務地といった処遇を答えられないまま伝えると、不安だけが先に広がります。第二に、その不安が社外へ漏れると、取引先や金融機関の対応が変わり、交渉自体が難しくなることがあります。第三に、条件が固まる前の説明はどうしても曖昧になり、後から「聞いていた話と違う」という不信につながりかねません。伝えるべき内容が揃ってから伝える。これが結果的に、従業員にとっても最も誠実な進め方になります。
伝える順番と実務のステップ

実務では、次のような順序で情報開示を進めるのが一般的です。
最終契約の内容がおおむね固まった段階で、まず幹部や事業の要となる社員に個別に説明します。次に対象部門の従業員へ説明会という形で全体に伝え、その後、一人ひとりと面談して転籍の同意を取得します。転籍後の労働条件を書面で示し、同意書を取り交わすところまでが一連の流れです。
同意を取るときに説明すべき4つのこと
面談の場では、従業員が判断できるだけの材料を示す必要があります。具体的には、譲受企業がどのような会社か、給与・賞与・役職といった処遇がどう変わるのか、勤務地や勤務時間に変更はあるのか、そして勤続年数や有給休暇、退職金の計算がどう引き継がれるのかという4点です。
特に勤続年数と退職金の扱いは、通算されるのか、いったん精算されるのかで従業員の受け止め方が大きく変わります。ここは譲渡側と譲受側で事前に取り決め、説明内容を統一しておくことが欠かせません。同意を得られない従業員が出た場合の対応も、あらかじめ想定しておく必要があります。
まとめ
事業譲渡における従業員への通知は、法律で期限が決まっていないぶん、経営者の判断に委ねられる部分が大きい論点です。条件が固まる前に伝えて不安を広げるのではなく、示すべき処遇を整えたうえで、幹部から順に丁寧に伝えていく。この設計ができているかどうかが、譲渡後の人材の定着を大きく左右します。
個別の事案では、雇用契約の内容や譲受企業の人事制度によって進め方が変わりますので、実際の対応にあたっては最新の法令や指針をご確認のうえ、専門家にご相談ください。TORUTEでは熊本市・八代市を中心に、事業譲渡やM&Aにおける従業員対応のご相談を承っています。「うちの場合はいつ伝えるべきか」という段階からで構いませんので、お気軽にご相談ください。
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