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事業譲渡で従業員への通知はいつ?~熊本の相談現場で見る伝え方と同意の取り方~

2026/08/07 13:31|カテゴリー:M&A

事業譲渡で従業員への通知はいつ行う?~熊本の相談現場で見る、伝えるタイミングと同意の取り方~

こんにちは。熊本の事業承継・M&AコンサルティングファームのTORUTE(トルテ)です。事業譲渡を検討し始めた経営者の方から、必ずと言っていいほどいただくのが「従業員にはいつ、どう伝えればいいのか」というご相談です。取引先や金融機関への説明よりも、長年一緒に働いてきた社員への通知をためらう方は少なくありません。この記事では、事業譲渡における従業員への通知について、法律上のルールと、熊本の相談現場で私たちがお伝えしている実務上のタイミングを整理します。

事業譲渡で従業員への通知はいつ行う?

結論:法定の通知期限はないが、「同意」は一人ひとりから必要

まず押さえていただきたいのは、事業譲渡には従業員への通知期限を定めた法律がない、という点です。会社分割の場合は労働契約承継法によって書面通知の期限まで細かく決まっていますが、事業譲渡はこれとは仕組みが異なります。

一方で、事業譲渡は権利義務を一つひとつ引き継ぐ「個別承継」です。そのため労働契約は自動的には移らず、従業員を譲受企業へ転籍させるには、従業員本人の個別の同意が必要になります。つまり「通知の期限は決まっていないが、同意が取れなければ事業は動かない」という構造です。だからこそ、通知のタイミングは法律ではなく、実務の設計で決めるべき問題になります。なお、厚生労働省の指針では、譲渡会社が対象となる労働者と事前に十分な協議を行うことが求められている点にも留意が必要です。

「早すぎる通知」が招く3つのリスク

従業員への配慮から、基本合意の前に社員へ打ち明けたいとおっしゃる経営者もいます。ただ、条件がまだ固まっていない段階での通知は、かえって現場を混乱させることがあります。

第一に、給与や勤務地といった処遇を答えられないまま伝えると、不安だけが先に広がります。第二に、その不安が社外へ漏れると、取引先や金融機関の対応が変わり、交渉自体が難しくなることがあります。第三に、条件が固まる前の説明はどうしても曖昧になり、後から「聞いていた話と違う」という不信につながりかねません。伝えるべき内容が揃ってから伝える。これが結果的に、従業員にとっても最も誠実な進め方になります。

伝える順番と実務のステップ

事業譲渡で従業員へ伝える順番の5ステップ

実務では、次のような順序で情報開示を進めるのが一般的です。

最終契約の内容がおおむね固まった段階で、まず幹部や事業の要となる社員に個別に説明します。次に対象部門の従業員へ説明会という形で全体に伝え、その後、一人ひとりと面談して転籍の同意を取得します。転籍後の労働条件を書面で示し、同意書を取り交わすところまでが一連の流れです。

同意を取るときに説明すべき4つのこと

面談の場では、従業員が判断できるだけの材料を示す必要があります。具体的には、譲受企業がどのような会社か、給与・賞与・役職といった処遇がどう変わるのか、勤務地や勤務時間に変更はあるのか、そして勤続年数や有給休暇、退職金の計算がどう引き継がれるのかという4点です。

特に勤続年数と退職金の扱いは、通算されるのか、いったん精算されるのかで従業員の受け止め方が大きく変わります。ここは譲渡側と譲受側で事前に取り決め、説明内容を統一しておくことが欠かせません。同意を得られない従業員が出た場合の対応も、あらかじめ想定しておく必要があります。

M&Aの手法によって従業員の扱いはどう違う?事業譲渡・株式譲渡・会社分割の違い

従業員への通知で悩まれる方の多くは、そもそも「事業譲渡という手法を選んだこと」で手間が増えている、という点に気づいておられません。同じM&Aでも、どの手法を選ぶかによって雇用の引き継ぎ方はまったく変わります。ここを理解しておくと、通知と同意の負担をあらかじめ見積もることができます。

株式譲渡なら雇用はそのまま引き継がれる

株式譲渡は、会社の株主が変わるだけで、会社そのものは存続します。従業員の雇用契約の相手方は変わらないため、転籍の同意を一人ずつ取る必要は原則としてありません。従業員が多い会社や、一人ひとりの同意を取る時間が取りにくい会社で株式譲渡が選ばれやすいのは、この違いが大きな理由です。

熊本の相談現場でも、従業員十数名を超える規模になると、事業譲渡から株式譲渡へ設計を切り替えて検討し直すケースがあります。手取り額や税金の違いも含めた比較は、株式譲渡と事業譲渡どちらで売るかの記事で整理しています。

会社分割は労働契約承継法による包括承継

会社分割の場合は、対象となる事業に主として従事する従業員の労働契約が、原則として包括的に承継されます。そのぶん労働契約承継法によって、通知の期限や従業員との協議の手順が法律で細かく定められているのが特徴です。

つまり、事業譲渡は「期限の縛りはないが同意が必要」、会社分割は「同意は原則不要だが手続きの縛りがある」という、ちょうど逆の構造になります。どちらが負担が軽いかは従業員数や事業の切り分け方によって変わりますので、設計の段階で比べておくのが安全です。

「事業承継」と「事業譲渡」は指す範囲が違う

ご相談の場で混同されやすいのが、事業承継と事業譲渡という言葉です。事業承継は会社の経営そのものを次の世代や第三者へ引き継ぐこと全体を指す広い言葉で、親族内承継や従業員承継も含みます。これに対して事業譲渡は、その手段のひとつとして、事業の全部または一部を契約で他社へ移す手法を指します。

この違いを押さえておくと、従業員への説明の仕方も変わります。「会社をたたむのではなく、事業を続けるために譲る」という位置づけを先に伝えられるかどうかで、受け止め方は大きく変わるのが実務の印象です。

転籍を断られたらどうなる?同意が得られないときの実務対応

事業譲渡の従業員対応で最も相談が多いのが、「同意しない人が出たらどうなるのか」という点です。買い手が人材の確保を目的にしている場合、同意の取得はクロージングの条件に組み込まれていることもあり、交渉そのものに影響します。

譲渡会社に残った従業員の扱いと解雇のリスク

転籍に同意しない従業員は、譲渡会社にそのまま在籍し続けるのが原則です。譲渡によって担当していた事業がなくなったとしても、それだけで当然に雇用契約が終わるわけではありません。

ここで注意が必要なのは、同意しなかったことを理由に退職を促したり、整理解雇に踏み切ったりする場合です。整理解雇には人員削減の必要性や解雇回避の努力、人選の合理性、手続きの妥当性といった点が問われるのが一般的で、安易に進めると後から争いになりかねません。残る従業員の配置をどうするかは、譲渡の設計と同時に考えておくべき論点です。

なお、転籍を断って退職に至った場合に失業給付が会社都合になるのかという点は、従業員側から非常によく聞かれます。この点は事業譲渡で退職したら会社都合になるのかの記事で詳しく整理していますので、説明会で質問が出たときの備えとしてご覧ください。

取引先の同意書と従業員の同意書は別に用意する

事業譲渡は個別承継ですので、同意を取る相手は従業員だけではありません。取引基本契約や賃貸借契約、リース契約についても、契約の相手方から承諾を得る、あるいは契約を結び直す必要があるのが原則です。

この取引先向けの同意書と、従業員の転籍同意書は、記載すべき内容がまったく異なります。実務では両方を一覧にして、どの契約と誰の同意がクロージングまでに必要かを表にして管理します。許認可や賃貸契約など自動では移らないものについては、事業譲渡で引き継げないものの記事も参考になります。

パート・契約社員の同意も一人ずつ必要になる

正社員だけに説明すれば足りると考えてしまいがちですが、事業譲渡で転籍させる場合、パート・アルバイト・契約社員についても個別の同意が必要になるのが原則です。有期契約の場合は、残っている契約期間をどう扱うかという論点も加わります。

熊本市・八代市でご相談をお受けする小規模な事業では、パート比率が高い店舗や施設が少なくありません。人数が多くなるほど面談の日程調整だけで数週間かかりますので、スケジュールは余裕をもって組んでおくことをおすすめします。

従業員への通知と同意に関するよくある質問

通知は何日前までに行う必要がありますか

事業譲渡の場合、従業員への通知期限を定めた法律の規定はありません。ただし同意の取得と転籍の準備に時間がかかりますので、実務ではクロージングの1〜2か月前から説明に入る例が多い印象です。従業員数や面談に充てられる時間によって変わりますので、個別の事情に合わせて逆算してください。

同意書にはどのような内容を書きますか

転籍の同意書には、転籍する日、転籍後の使用者、給与や賞与などの労働条件、勤続年数や有給休暇の取り扱いといった項目を記載するのが一般的です。説明会で配る労働条件の書面と同意書の内容が食い違わないよう、譲渡側と譲受側で事前にすり合わせておくことが欠かせません。書式は事案によって異なりますので、作成にあたっては専門家にご相談ください。

1000万円以下の小さな案件でも同じ手順が必要ですか

金額が小さくても、事業譲渡であれば個別の同意が必要という点は変わりません。一方で従業員数が少ない案件では、説明会を省いて最初から個別面談で進める方が落ち着いて話せることもあります。少額案件に絞った伝え方の順番は、1000万円以下のM&Aで従業員にいつ伝えるかの記事で具体的に扱っています。

まとめ

事業譲渡における従業員への通知は、法律で期限が決まっていないぶん、経営者の判断に委ねられる部分が大きい論点です。条件が固まる前に伝えて不安を広げるのではなく、示すべき処遇を整えたうえで、幹部から順に丁寧に伝えていく。この設計ができているかどうかが、譲渡後の人材の定着を大きく左右します。

個別の事案では、雇用契約の内容や譲受企業の人事制度によって進め方が変わりますので、実際の対応にあたっては最新の法令や指針をご確認のうえ、専門家にご相談ください。TORUTEでは熊本市・八代市を中心に、事業譲渡やM&Aにおける従業員対応のご相談を承っています。「うちの場合はいつ伝えるべきか」という段階からで構いませんので、お気軽にご相談ください。

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